台湾大学(理系)修士からの留学について

国立台湾大学・応用数学科学研究所で数理統計を専攻しております。だいたいどのような科目を履修するかと言うと、数理統計学回帰分析多変量解析などの統計学の授業に加えて、実解析(ルベーグ積分・測度論)確率論などの解析系の科目、あとは選択としてデータサイエンス(統計学の機械学習への応用)の授業なども履修可能です。

さて、台湾大学の日本人留学生のブログなど他にもありますが、私のように理系で日本の大学や院を出てから、台湾大学の院に来るパターンは比較的少ない方かと思います。もしかすると、レアケースかもしれませんが、日本の大学を卒業した後、理系分野で台湾の大学に進学したい人もいるかもしれないと思ったので、私の体験を共有したいと思います。

ただし実際の申し込みの方法などのテクニカルな部分については、他のブログの方を参照してもらったほうが良いと思います。(私は外国人としては特殊な経路で入学しましたので、参考にはならないと思います。)

ろくに勉強しなかった日本の大学時代

台湾大学に来る数年前までは、京都大学の工学部と情報学研究科で学士と修士まで取りました。ただ京大にいた頃は全くと言っていいほど、勉強せず、海外旅行だけが唯一の生き甲斐のような生活をしていました。当時はヨーロッパ、中東、アジアを中心に40カ国以上は訪問しました。

勉学には力を入れなかったものの、大学はなんとか四年で卒業し、四年生の夏には、院試にも無事に合格し、そのまま同じ研究室に残り、修士時代は、一年の休学に加えて、半年提出が遅れたものの、最後には無事に修論を完成させて、なんとか卒業しました。

ところが京大を院まで出たのは良いものの、胸を張って何か専門的な知識を身に着けたとは決して言えないような状態でした。

卒業後は色々あって上海に行ったりしていたのですが、その後、ビジネスパートナーの中国人が当局に逮捕されて音信不通になるなど(未だに服役中)、波乱な人生が幕を開けました(笑)

台湾大学を目指して一人奮闘する日々

そんなある日、「このままではアカン!」と思っていた時、ふと統計学に興味を持ち、勉強を始める事にしました。 勉強するにつれて、次第に統計学の面白さに目覚めはじめ、遂には「中国語も意思疎通には困らない程には出来るし、台湾の大学院にでも入り直して、統計学を専門的に勉強してみるかー」等と思い立ちました。(→ 海外で学位を取るということに対して漠然とした憧れみたいなものもあったかもしれません。)

そこで調べていくうちに、ようやく台湾大学の応用数学研究所に数理統計専攻のコースがあるを知り、そこに入ることを考え始めました。しかし大学時代は数学を専門的に勉強したことの無かった私が果たして、仮に入学した所で本当にやっていけるのかと不安でした。(→ 大学1~2年の時に、微分積分、線形代数、確率統計、ベクトル解析、微分方程式、複素関数論、フーリエ解析などは履修しましたが、あくまで工学部の授業だったので、深く理論を勉強したわけではありません。また情報学科の計算機コースだったので、情報理論、コンピュータアーキテクチャ、言語オートマトン、コンパイラ、グラフ理論、アルゴリズム論、データベース、マルチメディア等の授業がメインでした)

外国人が台湾大学の大学や院に入るにはどうやら書類審査で入学できるようでしたが、「もし台湾人の学生と同じく筆記試験を受けて実力で合格したら、きっと私でもやっていけるに違いない」と考え、自分の不安を払拭するために、あえて筆記試験に参加する道を選びました。こうして一人でコツコツと院試の受験勉強する日々が始まりました。

試験科目は英語、微積分、線形代数、確率統計の四科目で、思い立った頃には本気で準備できる期間は半年ちょっとしかありませんでした。昔、買ったものの結局ほとんど読みすらしなかった数学の参考書を必死に読んだり(一問も残さず解く)、台湾で売られている修士課程の入試問題集を買って解いたりしました。また日本語で問題の解法を思考しながら、それを中国語に変換して、解答を作る訓練もしました。

一杯のコーヒーで粘りながら、深夜のスタバやマクドナルドで一人で勉強して、そして暗闇の中、自転車を漕いで家に帰るような日々が数カ月も続きました。心細い日々でしたが、「目標を達成してやる」という闘志に溢れていた日々だったと思います。

しかし台湾大学に実際に入った今から思えば、この受験勉強を通して、数学や統計学の知識以外にも様々な役に立つ能力を訓練出来たと思います。そのうち一つは分からないことを突き詰めて考える忍耐力です。また、現地の台湾の学生であれば、院試の受験対策をする上で、簡単に有用な情報を集めたり、院試対策の予備校に通ったりできるなど、外国人の私は彼らに比べて(情報収集の観点からも)圧倒的に不利な立場にありました。そこで、なんとか自分なりに役に立ちそうな参考書などを調べあげた上で、勉強計画を練る必要がありました。そういった経験も今思えば、受験対策に限らず、一生役に立つ訓練になったと思います。

ハンディキャップを背負った状態からの逆転劇、そしていざ台大へ

12月に入ると台湾の女友の協力を得て無事に試験の申し込みを済ませ、翌2月の旧正月明けに入試本番を迎えました。本番は非常に緊張しました。特に1科目の「微積分」が過去問より難しくなっていて、全然出来た気がしませんでした。(微積分は過去問が簡単だったのでそこまで対策しなかった。) そして最終科目の「線形代数」も過去問より難しくなっていたと思います。総合的に、あまり出来た気がしなかったし、倍率も非常に高い競争だったので落ちたかなと思いました。

しかし3月の合格発表を見ると、なんと1位の成績(正取第一名)で合格していました。(合計39人中、合格者は2人)

あの深夜までスタバやマクドナルドで勉強していた日々が報われたと思いました。そして大学時代にろくに勉強せず、非数学科出身で満足に数学を学ばなかった、しかも試験は母国語ではない外国語で解答を作らないといけない、etc…といういくつかのハンディキャップを背負った状況でも、必死に努力して勉強すれば、きちんと戦いに勝利し結果を出すことが出来るんだ、と今まで失っていた自信をこれをキッカケに徐々に取り戻すことが出来ました。

こうして無事に台湾大学への切符を手に入れる事が出来た後、入学までの約半年間の間には、統計学の勉強を続けつつも、測度論・ルベーグ積分など今後必要になる解析の勉強を開始しました。(→ 集合位相すら勉強したことがなかった私には、はじめは難しかったですが、簡単な本から読み始めて、何冊も本を買うことで、今では何とかそこそこ理解できるようになったと思います。實分析Iという科目が測度論・ルベーグ積分の入門の授業なのですが、無事A+の成績で単位を取ることができました。)

自分を成長させてくれる環境

台湾に来てから思ったことについてはいくつか項目を取り上げてて下の方に書くこととしますが、ここでは一旦、台湾大学に来てよかったと思うことについて書きます。

台湾に来てからも勉強面で色々壁にぶち当たりながらも、人より時間がかかってもいいから、自分のペースでゆっくりと納得するまで勉強することで、今のところ全科目A+の成績を取ることが出来ています。(現時点でまだ残り3科目ありますが)

日本にいた頃は、教授から褒められるなどという経験なんて一切ありませんでした。しかし台大に来てからは(又聞きですが)私の事を高く評価してくれている教授もいらっしゃるそうです。台湾大学は自分に自信を与え、そして成長させてくれる環境だと思っています。残りも必死で勉強して、良い成績で卒業したいと思っています。またうまく行けば別の国へ行って博士号を目指してみたいとも思っています。こうして自分の人生が少しでも良くなっていけばいいかな、などと考えながら勉強に励んでいます。

その他思う事について

以上、自分のサクセスストーリーみたいなのを自慢臭く語っただけで、あまり参考にならなかったかもしれません。しかし人間は不利かつ未知の状況でも、きちんと対策を練って、忍耐強く努力を続ければ芽が出るということが伝えられ、台湾への留学を考えている人への励ましになれば幸いです。

さてここからは台湾に来て思ったいくつかの事を適当に書いていきたいと思います。

留学に必要な中国語能力について

台湾で大学や大学院に留学するとなると、高度な中国語運用能力が必要になるのではないか?と足がすくんで、それが留学のハードルになってしまう人がいるかもしれません。しかし日本人の中で、中国語が出来なくて学業に支障が出たという話はあまり聞いたことがないので語学については過度に心配する必要はないと思っています。(少なくとも理系に関しては)

そもそも日本語や英語の参考書を読んで自分で勉強するなど、(中国語と切り離した上で)いくらでも勉強する方法がありますから、学業に問題があったとしても、単に勉強のやり方やペースなどに改善すべき点があるのではないかと思います。

ただ私の経験から言えば、語学学校に一年間通って+αとして自分の分野の専門書がだいたい読める程度であれば、まず心配はいらないと思います。中国語の専門用語の単語や言い回しに習熟することについて、適当にその分野の本を一冊買って読み通せば大体カバーできるはずなので、それも怖がる必要はないかと思います。

(そもそも理系であれば中国語の専門書を読むケースは少ないかと思いますが、一応中国語でもその専門分野の言い回しや訳語は知っておくに越したことはないと思います)

台湾大学(や台湾の大学)に通うメリットについて

台湾大学といえば優秀な学生が集まってくる場所かもしれませんが、私の観測した限りでは、出来の悪い学生もいれば、優秀な学生がいるので、学生の質について言えば、日本のそれなりのレベルの大学と比べてそんなに変わらないと思います。(むしろ超絶優秀な連中と切磋琢磨したいのであれば、東大とかに行ったほうがいいかもしれません。)

ただ台大の教授はほぼ全員アメリカの大学で博士号を取ってきたような人たちなので、彼らの推薦する教材や彼らの要求する水準の下で勉強できることは、今後アメリカ等に進学したいと考えているならば、役に立つかもしれません。また学生もアメリカに留学したい人たちが結構いるので、自分も同じ方向を目指すのであれば、励みになるのではないかと思います。

次に私の経験上、台湾大学で留学しているうちに、新しい事を学ぶ上で、日本語、英語の教科書以外にも、台湾の繁体中国語でか書かれた教科書、さらには中国(大陸)の簡体中国語の教科書など、自分の理解できるあらゆる言語で書かれた書籍・資料を漁って、その中から役に立つものであれば何でも利用するという貪欲な学習姿勢が身についたことも、非常に良かった点だと思います。

また私の周りで、日本で大学教育を受けられなかった人が、ある程度、年齢を重ねてから台湾の大学に入学したという例を複数知っています。物価の安さという経済的なメリットもあるのかもしれませんが、台湾に来ることで、日本社会の価値観に縛られず、安心して勉学に打ち込みながら、自分の人生に新たな可能性を切り開けるといった価値を台湾の大学に見出しているのかもしれません。(私にも当てはまっているかな?)

私より若い人たちへ

台湾の留学とは関係ないですが、おそらく私より若い人たちが目にする可能性が高いので、昔の自分に伝えたかった事をせっかくなので書きます。

まず「好きなことを大切にすべき」というのは年齢を経るに連れて痛感するところであります。若い頃は将来への不安から、色々な算盤を叩いて自分のすべき事を決めがちですが、やはり好きなことというのは、「好き」というだけで何事にも替えがたい価値があるように思います。ですからとりあえずリスクだとかは二の次にして、好きなことはやってみる、という選択肢はあってもいいと思います。

次に「人生は意外に長い」ということです。若い頃は人より先に何かを経験したり達成したりする事が偉いといった風潮に惑わされ、何かと事を急ぎがちでしょう。しかし人より時間がかかっても、自分の満足するやり方を貫く方が長い目でみれば得策である場合が多いと思います。例えば学業に於いて、人より卒業に年数がかかっても、人よりしっかり学んだ者の方が、残りの長い人生において、より多くの知恵や知識を持って有意義に過ごせるのではないかと思うのです。どうか目先の結果に惑わされず、人生を長いスパンで捉えて、より正しいと思う選択をとってください。

 

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